教育委員だより No.20

平成14年2月25日

小牧市教育委員会  教育長  副島 孝

学力低下論議に思う(その1)

この4月から、全国の小中学校で新しい学習指導要領が全面実施されます(高等学校は15年度から)。学校週5日制も完全実施となります。この二つに比べると取り上げられることが少ないのですが、指導要録の評価が絶対評価になります。新しい教育の始まりなのですが、直前になって雲行きが怪しくなってきました。それは、学力低下論が声高に叫ばれるようになってきたことによります。また、文部科学省の対応が迷走気味だと指摘されていることも、事態をいっそう複雑にしているように感じます。教育行政や学校現場も困惑しているという状況です。この時期にこれでは困るのですが、今後の市教委としての対応にも大きく関わることなので、何回かにわたって私なりに整理しておきたいと思います。

まず学習指導要領です。これは最終的には、文部科学省でまとめられますが、そこに至るまでの過程を押さえておきましょう。今回の改定は、まず平成9年6月の「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」という中教審答申に始まります。ここで打ち出された内容が、「これからの教育は[ゆとり]の中で[生きる力]をはぐくむ」というものです。この答申を受けて、教育課程審議会が組織されました。そして、平成10年7月に「幼稚園、小学校、中学校、高等学校、盲学校、聾学校及び養護学校の教育課程の基準の改善について」を答申しました。この答申は、各教科の授業時間や内容まで示しています。つまり、この二つの審議会で、基本的な内容は決定されたのです。

この二つの審議会は、社会の各層から委員が参加しています。具体的に言うと、当時の中教審は会長が有馬朗人理化学研究所理事長(後に文部大臣)、副会長が鳥居泰彦慶応義塾長です。教課審は会長が三浦朱門氏(作家)、副会長が西澤潤一岩手大学長です。委員には、教育研究者、教育行政担当者、学校関係者だけでなく、経済界、労働界、PTA、その他各界の人が加わっています。例えば教課審には、堀田力さんや安藤和津さんなどの名も見えます。このように、決して文部科学省だけの考えで決められたものではありません。

学習指導要領は、これまで10年ごとに改定されてきました。だから学校週5日制が月1回は平成9月から、月2回は平成7年4月から実施されたときも、学習指導要領は以前のままでした。その結果、教育内容が変わらず授業時間数だけが減ったので、学校はかえってゆとりが無くなるという状況さえ生まれました。このように、新しい学習指導要領は学校週5日制への対応を、出発点にしていました。授業時間が減るのですから、各教科の時間数は減らざるを得ません。今回は特定の教科から減らすのではなく、ほとんどの教科時間を削って、新しく「総合的な学習の時間」を新設しました。それに加えて中学校では、選択教科の時間を増やしました。

学力低下論が出てきた原因の一つが、この教科時間数の削減、それに伴う教科内容の削減にあったことは確かだと思います。これまでも削減対象になった教科の関係者は、かなりの不満と批判を表明していました。しかも今度は全教科ですから。今回の学力低下論議は、大学教授による大学生の学力低下論議から始まったと思います。それが、入試科目や高校での履修教科に飛び火し、小中学校の理科・数学・算数にまで及んできました。また、国語やその他の教科にまで、広がってきました。

従来の学校教育批判は、役に立たない教育内容に対する、主として経済界からの批判でした。もっと基礎的なこと、広く応用できることにしぼって、思い切って学校をスリム化しよう、小学校など午前中授業でもよいのではないか、とまで言われたこともあります。学校でしか役に立たない知識など必要ない、これまでの学校秀才では国際社会に対応できないと主張されました。新学習指導要領の基本的な考えも、これを受けているのは間違いありません。しかし、長引く不況からか、経済界からも元気のいい主張がなされなくなってきました。(その2に続く)

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