教育委員だより No.41

                                                         平成14年10月16日

                                                小牧市教育委員会教育長  副島孝

専門職の処遇…田中さんのノーベル賞受賞から…

いやなニュース、意欲をくじけさせるようなニュースが多いなか、久しぶりに勇気づけられたのが小柴昌俊さんと田中耕一さんのノーベル賞ダブル受賞のニュースでした。なかでも化学賞受賞の43歳の田中さんは、島津製作所という企業に勤めるサラリーマンだと本人も周囲も思っていたらしく、受賞後の言動も多くの人々の共感を集めるものでした。ノーベル賞受賞者というと、雲の上の天才と思いがちですが、必ずしもそうとは限らない(と言って誰でも取れるはずはないですが)ということでしょうか。

さて、田中さんの受賞後のニュースで、私が興味をひかれたのは「管理職になると研究が続けられないので、昇進試験を拒んできた」というものです。これは専門職と呼ばれる仕事をしてきた者には、本当によくわかる言葉です。私も教員を長く務めていましたので、担任を外れたときの虚脱感を今でもはっきりと思い出すことができます。また、その後、教頭、校長となり、仕事内容が直接子どもと接することからますます離れていくにつれて、これが本当に自分の志した道だったのかと疑問に感じることがしばしばありました。もちろん管理職は重要な仕事ですし、それなりに充実感もあるのは確かですが。

教員として非常にすぐれた人でも、管理職に向いてない人は少なくありません。また、田中さんと同じように、自分の意志でいつまでも子どもと接する専門職としての道を選んでいる人も、決して少なくありません。現在、すぐれた教員を処遇する方法は、ほとんど管理職のポストしかないのが現状です。しかし、これでいいとはとても思えません。すぐれた教員を優遇すべきだという議論も、最近は各所でなされています。具体的には、教員にとって管理職のポストは校長、教頭しかありませんので、金銭面での優遇措置を考えているようです。

専門職として生きている教員を、ポスト以外の手段で処遇するということには、私も大賛成です。金銭面で優遇することも、ひとつの方法だとは思います。ただ、これは現状では市教委の権限を超えていますし、本当に有効かどうかには疑問もあります。管理職ではないが、すぐれた教員を処遇する方法として、現在小牧市教委として行っているのが教科指導員制度の活用です。各教科等ですぐれた実践を行っている教員を教科指導員に任命し、学校訪問や教員研修などの指導にあたってもらう制度です。

従来から教科指導員制度はあったのですが、ふさわしい人がいるかどうかではなく、必ず決められた数だけ任命する仕組みでした。今年度からは、ふさわしい人がいなければ空席でも構わないという方針で選んでいます。金銭面での優遇はありませんが、研修の機会は優先的に設けるようにしています。来年度からは、教科指導員にカリキュラム編成等の大学院レベルの研修機会を設けることができないか検討しています。すぐれた教員には、管理職として生きる道と、指導力のある専門家として生きる道の両方を用意したいのです。

2年前に白川英樹さんがノーベル化学賞を受賞されたときに、筑波大学を定年退官した年なのに無職だった、と話題になったことを思い出しました。ノーベル賞を受けるような学者でも、ポストで処遇することは無理な時代になっているんだなと感じました。管理職になっている教師だけが、優秀なわけではありません。組織としての学校を運営する優秀な管理職と、最後まで一担任として指導にあたる優秀な先生方がいて、はじめて良い学校教育が行われるのではないでしょうか。

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