教育委員だより No.51

                                                         平成15年3月5日

                                                小牧市教育委員会教育長  副島孝

文集『12mの通学路』を読んで

「訪問教育」という言葉をご存知でしょうか。障害が重かったり病気などで、毎日学校に登校して勉強することのできない子どもたちの所に、先生が出かけていって授業を行う制度です。学校に入学すべき年齢に達しているが、通学できる状態にない子どもに対して、養護学校の先生が週3回直接家庭に訪れて授業を行う制度だと、不覚にも私はとらえていました。通学できない状態には家庭以外にも、病院に長期入院していることも当然あります。病院を訪問することも、「訪問教育」になるのです。

病院で勉強する制度としては「院内学級」という仕組みもありますが、今のところ小牧市内にはありません。それに対して「病院訪問教育」のほうは、院内学級がない病院でも利用できる制度です。愛知県では、大府養護学校のみで実施しており、県内どこへでも先生が派遣されます。この文集12mの通学路』が扱っているのは、この「病院への訪問教育」なのです。

「病弱児の教育を考える会」編集のこの文集のことを、私は早朝のラジオで知りました。早速この冊子をまとめられた大府養護学校の山本純士先生に送っていただけないか依頼したところ、快くお送りいただき読むことができました。保護者の方(仮名で書かれています)や指導の先生方、計10名の文章が掲載されています。その他に「病院訪問教育」を説明した、はじめにとあとがきから構成されています。全体で27ページの文字通りの小冊子ですが、読後には様々なことを考えさせてくれます。

病気で入院中の子どもに週3回2時間ずつの授業は必要なのかという疑問。子どもはどう受け止めるだろうかという心配。養護学校へ転校という形をとることへの抵抗感。保護者の方々の文章からは、それらの感情が痛いほど伝わってきます。それと同時に、やっぱりわが子に訪問教育を受けさせてよかった、という満足感も伝わります。訪問教育を検討している保護者の不安を、体験談が軽減してくれるのではないかというのが、この文集を作成したひとつの動機となっているそうです。

ところで、題名の「12mの通学路」の意味はおわかりでしょうか。山本先生からのお手紙によれば、入院中に小学校入学の年齢に達し、4月から訪問教育を受け、9月には亡くなってしまった、あゆむちゃん(仮名)という子のお母さんが語った、「あゆむは地元の学校には行けませんでした。けれど小学校には行くことができたと思っています。病室から(教室として使用している)プレールームまでの12mの廊下が、あの子の通学路だったんです」から来ているそうです。

ご無理を言って送っていただいた文集ですので、小牧市立図書館3階の郷土資料室においてもらうことにしました。機会があれば、多くの方に読んでいただき、「病院訪問教育」を知っていただけたらと思います。同時に、今の社会では忘れられがちな、「学校へ行って勉強できることの幸せ」を、実感していただけたらと願っています。

目次へ戻る