教育委員だより No.71

                                                                  平成15年12月4日

                                                小牧市教育委員会 副島孝

職場体験学習の礼状

先日、市外のある大学の先生に、一種の職場体験学習を受け入れ先となった経験をうかがいました。保育士になりたい中学生たちが、保育園ではなく保育士を育てるその大学を体験したそうです。受け入れた大学は初めての経験だったので、学生たちと相談して、中学生も参加できる特別な授業を実施し、参加した中学生も心から楽しんでくれたと感じたそうです。数日して、中学生から礼状が届きました。書式にのっとった、ていねいできちんとした礼状だったそうです。しかし、その礼状を読んだ学生たちは、すっかり落ち込んでしまったというのです。

その礼状には、訪問を受け入れてくれたことへのお礼、学食での昼食がおいしかったこと、帰りに車で送ってもらったことへのお礼などが、書かれていました。しかし、学生たちをがっかりさせたのは、保育士になりたいと訪問した中学生も参加できる授業を計画し、中学生たちも真剣に楽しそうに参加していたと思っていたのに、礼状がそのことに一言も触れてなかったことにあります。一体あの訪問の目的は何だったのだろうか、自分たちの工夫が中学生に通じなかったのか、楽しそうに見えたのに実際はそうでもなかったのか、学生たちは悩んだそうです。

体験活動自体の重要性は、今さら言うまでもないことです。礼状をきちんと出すことも、大切なことです。どこの中学校でも、体験活動を機会に依頼状や礼状の書き方、電話のかけ方、挨拶など訪問先でのマナーを指導しています。こういうことを学び、体験することの少ない中学生には、よい勉強になっています。しかし、気持ちの伝わらないようなマナーであって、よいわけではありません。本当に大事なことを学びそこなっている、と言われても仕方ないでしょう。

実は、最近機会があって「小牧市教育ビジョン」の基になった、小牧市教育懇話会の提言「これからの学校教育」を読み直しました。その中に、小牧の教育のキーワードとして、「ひと・もの・こと」と進んでかかわり合う力の育成が挙げられていました。当時の検討の中心的な役割を果たした方に、「こと」を入れた理由をお尋ねしました(実は、ビジョン作成の数年間、私は小牧を離れていました)。「ひと・もの」で人や自然との出会い、自然や伝統とのふれあいを、「こと」で地域社会や生活の中での実践活動を示している。そして、それらとの「かかわり合い」の中で、「たくましく生きる力」が育成されるという考え方だとお聞きしました。

単なる体験でよしとするのではなく、その中で何をどう育てるかを見据えたビジョンを策定していたことが、改めて確認できました。移行措置から4年、完全実施から2年、総合学習はこれまでの教育をゆさぶるインパクトを与えてきました。各校での総合的な学習の時間のカリキュラムは、常に見直しが必要です。本当に意図した力を育てることになっているか、単なる体験活動に終始していないかは、見直しの際の有力な視点になることでしょう。

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