教育委員だより No.72

                                                                  平成15年12月17日

                                                小牧市教育委員会 副島孝

『江戸取流「学力革命」』を読む

教育書の中には、一般の読者をも獲得してベストセラーになる本が、数は少ないが存在します。その多くは、熱血本とでも名づけられるジャンルのものです。そのような分類は、この本の著者である江戸川学園取手中・高等学校の校長高橋鍵彌にとっては、心外かもしれません。しかし、「江戸取」と略称される同校での、「心の教育」を通じて「日本一規律ある進学校」をつくり上げるまでを描いたこの本(サンマーク出版)は、やはり熱血本の要素が強い、と私には感じられました。

印象的なのは、中等部1年生と高入部(高校からの入学生)1年生に対して、毎週それぞれ一斉に行われる、校長による道徳の授業です。内容は約35分間の講話で、それを生徒が速記用のノートに書き写すというものです。その後、生徒は講話の内容を友人と確認し合ったうえで清書し、感想をノート1ページ分書き、授業から3日後の朝までに提出するのです。提出されたノートは、校長や教頭、担任が分担して読み、それぞれに1ページ分の返事を書いて返却します。

また各学級では、担任がロングホームルーム(学級の時間)に自分の想いを話し、生徒たちはその内容をメモにとり、ノートに感想を書いて提出、担任は生徒たち一人ひとりにコメントを書いて返却します。この話の時間は70分で、質疑応答や生徒同士の討論に使ってはならない、としてあるそうですから大変です。これらを通して、「聞く力」「書く力」「集中力」「考える力」が自然に身につき、この力が教科の教育に生かされるから、学力も伸びるというわけです。

生徒へは、学園生活の目標として開校以来、「実践5項目」1挨拶を正しく行いましょう 2江戸取ファッションに誇りを持ちましょう 3悪い言葉を遣わないようにしましょう 4相手を呼ぶとき、「君、さん」づけをしましょう 5できるだけ徒歩通学をしましょう、を掲げてきたそうです。開校当初は、生徒からだけではなく、教師の一部からも理解されなかったとのことです。強制してやらせては生徒の中に残らないから、説得や教師の率先行動で定着を図ったといいます。今は、8割程度の定着だとのことです。

一方、教師には「5つの理念」1教師として自分を見つめ、自分の言葉・態度・服装を客観視すること(自覚) 2生徒の良い点・悪い点に気づく目・判断力を身につけること(識見) 3その場で注意を与える責任感をもつこと(愛情) 4その場で生徒を納得させ、直させる教育力をもつこと(教育力) 5学校全体のレベルで考え、将来を展望できる理解力をもつこと(広い視野)、を示しています。総じて言えば、 「畏敬の念を抱かれる教師であれ」ということです。新人教師が自分に内容がないことを自覚できず、「金八先生」気どりで生徒と接しようとする態度を、厳しく戒めているそうです。

このような例がそのまま、他校に役立つわけではありません。学校の状況はそれぞれ異なりますし、方法に還元できない教師個々の個性があります。どうして、その5項目・5理念でないといけないのか、と突っ込むことも可能です。しかし、そこで終わっては、せっかく本を読んだ意味がありません。参考になる面も多いのです。例えば、IT教育の導入に当たって、一部の堪能な先生に任せるのではなく、全員の手づくりで取り組んだこと(その一方で、システムのサポートについては専門家を置くなども、参考になります)、入学説明会で話を聞く態度の悪い父親を厳しく注意したことなど、私には参考になりました。むしろ、どこが参考になったかで、その人の教育に対する考え方や取り組み方がわかるような気がする本だ、ともいえるように思います。

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