教育委員だより No.87

                                                                  平成16年5月10日

教育長 副島孝

『レジャーの社会心理学』を読む

  『レジャーの社会心理学』(ロジャー・C・マンネル/ダグラズ・A・クリーバー/速水敏彦監訳・世界思想社)は、監訳者から贈っていただいた本です。名古屋大学大学院の速水教授は教育心理学者で、3年前まで小牧市の教育委員をされていました。現在も、教育ビジョン推進会議の議長をお願いしている方です。在外研究で外国へ行かれたことは聞いていましたが、その成果の一つが、この本との出会いであったらしいのです。

贈っていただくという契機がなければ、9ポイント活字でびっしり378ページの心理学の専門書に、自分から手を出すことはなかったでしょう。大体、本格的な専門書を読むこと自体、そんなに多くありません。しかも書名から想像がつくように、類書のなかったこの分野の研究を整理し、まとめ上げた本なのです。数行の文章の後には、必ず研究者の名前が出てきます。大半が聞いたこともない名前で(マズロー、エリクソンなどが出てくるとホッとします)、読み飛ばすしかありません。この本を読み通すのは大変だと覚悟しましたが、読み進むうちに読ませる工夫が随所にあることに気づきました。

次のような記事が地元新聞に掲載されたと想像してほしいと、まず第1章で示されます。

教育者や教育委員会の委員はゲームセンターから生徒を締め出し、教室にかえすことを願っている。ゲームセンターは無断欠席や窃盗を増加させ、若い生徒たちを貧困な環境に晒しやすい。教育委員会の委員は月曜日に話を聞いた。「悪いことで得たお金をゲームにつぎ込む十六歳以下の若い犯罪者の数が著しく増加している」と警察署長代理が委員会に話した。このコメントは地元の高等学校長により繰り返され、生徒がピンボールやコンピュータゲーム依存症を満たすために、「仲間や親から盗みをしている」と話した。

ゲームセンターの所有者は生徒を商売にひきつけるために学校の近くで開業することが多く、結果として、ある生徒たちは昼食後学校に戻るのが遅かったり、全く戻ってこないこともあると校長は言った。彼はその問題を両親、警察、他の地区の校長と討論した。そして十六歳以下の子どもたちに、親を同伴しなければゲームセンターに出入りすることを禁止し、学校の時間と重ならないように営業時間を限定し、ゲームセンターの場所を限定し、ゲーム機の数を制御するため機械に許可証を与える条例の制定を求めた。

この記事から、いろいろな論点が浮かびます。ゲームはレジャーかという論点からは、レジャーの定義が。本当に問題があるのかという価値体系の論点から、さまざまな社会心理学的アプローチが、等々。それらの問題が、各章でとり上げられていきます。読み通すのは大変ですが、なかなか面白いのです。特に興味を引いたのが、内発的動機づけと外発的動機づけの観点です(速水教授の専門は、学習の動機づけです。なぜ教授が、畑違いの本に興味を持ったのかが理解できました)。

例えば、あるゲームでうまくいくと報酬(ほうび)をもらえると予告され、実際に報酬をもらった子は、前のように興味を持たなくなる。趣味やレジャー活動に対して報酬を受け取ると、「遊び」から「仕事」に変わってしまうのである。ただ、予告されないと、報酬ではなくボーナスと認識し、興味は薄れない。このような興味深い記述が(時々ですが)出てきます。

この本を多くの方に薦めるということは、私にはできません。読み通すためにも、ずいぶん努力が要りました。しかし、専門書でさえ読ませる工夫をしているのだということを知ったのは、望外の収穫でした。

目次へ戻る