教育委員だより No.100

                                                                  平成16年10月4日

                                                教育長 副島孝

『公立校の逆襲』を読む

おそらく現在、日本中で最も有名な校長である東京都杉並区立和田中学校の藤原和博校長の最新刊『公立校の逆襲 いい学校をつくる!』(朝日新聞社)が出版されました。週刊朝日に連載されていた「校長体験記“よのなか宣言”」(これは読んでいました)と朝日新聞東京版に連載された「杉並校長日記」(こちらは当然ですが、読んでいません)を、大幅に加筆したものです。この加筆がミソで、ここまで書くかと感心するほどで、さすがは3年間限定での民間人校長だなあと感じ入りました。

著名人の授業への参加や原稿料や出演料を提供して始めた基金などについては、藤原氏個人のキャリアを生かしたもので、ほかの学校には参考にならないと感じるかもしれません。しかし、「校長や教師が保守的になるのは、もともとのキャラクターに原因があるのではない。こうした不慮の事故や日常的な失敗について、『世間』がいつも教師と学校を悪者としての総攻撃してきた歴史が効いている。もし、保護者がもう一度教師の間に失敗する勇気を復活させ、生徒にも『変化に富み、予測が困難で、危険もある世の中で生きるチカラ』を身に付けて欲しいと真剣に願うなら、まず、この教師たちの呪縛を解いてあげなければならない」という記述には、十分共感できるのではないでしょうか。

「テレビやゲームをつけっぱなしにして1日3時間以上も見せている家庭のお子さんの学力は、本校では保証しかねます。テレビ番組は選ばせて見せるようにしてください。また、家庭での学習は1年生でも毎日1時間以上。テレビの視聴時間よりも、勉強と読書を合わせた時間数が勝るようにして欲しいのです」と、入学式で話したそうです。「ここまで言わさないでよ」というのがホンネなのですが。家庭教育の問題が云々されていますが、実際に子供を見ている学校だからこそ言える、また言わなければならないことなのでしょう。

もちろん、教育界には耳の痛い記述にも事欠きません。たとえば、学校経営の現場における意思決定スピードは緩慢すぎる、と指摘します。ベテラン校長から「初めの1年は様子を見ること。でないと、教師がついてこないから。だんだん味を出していって4年目で自分の学校経営を完成する」とアドバイスを受けたそうです。これに対して藤原氏は、冗談ではない、子供たちのためを考えると、とても待ってはいられない、と思ったそうです。意思決定のスピードを速め、施策の実行を迅速にすることは経営の基本だから、教育目標を変えることから、就任後すぐに取り組んだといいます。

その一方で、教育界では「マネジメント」を間違って理解している可能性がある、と指摘します。私企業では、確かに「数値目標の設定」や「組織運営におけるリーダーシップ」などを行います。しかし小中学校では通常、「よく考える子供」とか「自立と貢献」(実は藤原校長が決めた学校教育目標)とか、目に見えない価値を追求しているのだから、和田中では設定していないし、したとしても、それはより高いクオリティを得るための手段でしかないと。「組織」についても、組織というものを連絡網のようにとらえ、命令するとそれに従う三角形の構図で想い描いているのではないか。古い経営書か組織論の影響で、管理職というのは「人になにかをやらせる」仕事だと勘違いしている、と指摘します。

実際には、変革期には“率先垂範型のマネジメント”しか用をなさない、と藤原氏は主張します。校長に限らず、教師にも、保護者にも、広く市民の方にとっても、読んで刺激を受けることは間違いない本です。反論するなら、具体策を提案して欲しい。そんな要求を感じる本です。読書の秋にいかがですか。

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