教育委員だより No.137

                                                                  平成17129

                                                教育長 副島孝

トンデモ科学と道徳の授業

『アエラ125日号』に、「『水からの伝言』の仰天」という記事が載りました。それは、写真集『水からの伝言』(江本勝・波動教育社)の、「ありがとう」と書いたラベルを貼った容器の水はきれいな氷結結晶になり、「ばかやろう」では汚い結晶になるという内容を利用し、正しい言葉遣いが大切ですねということを教える道徳の授業が広がっているというものです。問題は、この言葉に反応する結晶というのが荒唐無稽な話で、科学者に言わせればニセ科学の典型的な例だというのです。

実は昨年から既に、一部のメディアではこの問題が取り上げられていました。出版されたものでは『トンデモ本の世界T』(と学会・太田出版)や『たのしい授業281号』(仮説社)があります(両方とも私の愛読書)。インターネットでは、水の研究者サイト「水商売ウォッチング」や「市民のための環境学ガイド」でも取り上げていました。連載している郷土文芸誌『駒来』の昨年9月号(実際に原稿を書いたのは7月)で、私もこの問題に触れましたし、学校訪問などの折にも話したことがありますから、多分小牧市では心配ないと思っていました。しかし、先日小牧市でも実際に授業にかけている例があることを知りました。

なぜ、こんな普及したのかは理解できます。それは、インターネットのおかげ(せい?)です。すぐに授業にかけられるように、指導過程が使用する資料付きで載っています。現在ではリンクを削除したサイトもあるようですが、堂々と載せているサイトも少なくありません。一方で、この問題に対する科学者の見解を知るには、「市民のための環境学ガイド」の「やっかいな『水からの伝言』」など便利なサイトがあり、参考になります。

道徳の授業だけではありません。著名な講師の講演でも、聞いたことがあります。この内容が真実なら、ありがとうと書いた長期間保存できる水が販売されているはずだ、という冗談も聞きました。この本を読んで感心した人は、科学には疎くても善意の人であることは間違いないでしょう。「正しい言葉遣い」や「感謝の心」が大切であること教えるのに、目に見える形で根拠を示せるのですから。しかし、そのことが同時に、非科学的なことを信じ込ませることにもつながっているのです。目的の方が大事なんだから、そんなに目くじら立てなくても、という意見もあるでしょう。しかし、オウムの時あれほど騒がれたのに、もう動機と目的が正しいのだから何が悪いとなるのは怖いと思いませんか。

インターネットでの資料収集の便利さと危うさの問題でも、教訓的です。ネットの便利さは、ネット情報を吟味する能力を抜きにしては考えられないということです。出版された本でもいろいろ問題があるのですから、編集や出版の過程を経ていないネット情報を盲信することなど問題外です。さまざまな見解を吟味する力を育てる地道な学習の積み重ねがなされなければ、今以上にいい加減な情報に左右される社会になることは確実です。まさに子どもたちだけの問題ではなく、大人自身、教師自身が問われていると考えます。

目次へ戻る