教育委員だより No.140

                                                                  平成18117

                                        教育長 副島孝

『一斉授業の復権』を読む

学校教育には、さまざまな課題があります。そのなかでも今、手を打たなければ大変だという問題が、先生たちの指導技術の継承という課題です。何しろ、市内の先生の40%が50歳以上、65%が45歳以上というのが現状ですから。世に言う2007年問題の教育版です。これまで学校教育の問題は、ベテランの教師が大半であることを前提に語られてきました。しかし、事態は急激に変化しているのです。

そんな問題意識のなか、『一斉授業の復権』(久保齋、子どもの未来社)を読みました。著者は京都市の小学校教師で、学力づくりでは定評のある方です。タイトルからして、「新しい学力観」「個性尊重」「習熟度別指導」「特色ある学校づくり」「学校選択の自由」など、現在進められている「教育改革」に批判的な姿勢が伝わってきます。

確かに、子どもに迎合するだけで、きちんとした力をつけていない教育は批判されて当然です。著者はその原因を、一斉授業を放棄し、発問らしい発問のない授業、板書らしい板書のない授業、ノート指導らしいノート指導のない授業が蔓延してしまったためだと指摘します。一斉授業というと、教師が一人でしゃべるだけの授業というイメージがありますが、もちろん著者の言う一斉授業は、そんなものではありません。個と集団の学びが両立する本質を持った、つまりそれだけの技と思想をもったものであることを前提としています。

意外なことに、旧来の一斉授業を非難する佐藤学氏が提唱する「協同学習」には、自分の実践している授業と完全に一致しているとまで言い切ります。著者は、教師が一斉学習の技をしっかりもって段階を追って教育し、学び方を学ばせ、学習規律を高めてはじめて、「協同学習」を行うにふさわしい集団が育成されるのだと言うのです。

本書で参考になるのは、教室での指導の実際です。こういう取り組みをしたら子どもたちの力は伸びるだろうなと思わせる具体的な方法が示されており、参考になります。国語での音読や読解力、算数での計算や文章題の指導など、力のある先生の指導とはこういうものだという実例を見るようです。たとえ自作であっても、ワークシートを多用する風潮への鋭い批判にも、考えさせられます。

もうひとつ著者が強調していることは、「学齢期には学力形成が人格形成を牽引する」ということです。高学力な子があんな事件を起こしたというような俗論は、学ぶ(学力をつける)過程での人格形成という授業本来のねらいを軽視しているからだと否定します。これは重要な指摘です。最近各地で実践され、成果を上げている学校は、実はこの点を重視しているのです。言い換えれば、授業改善による生徒指導です。

教育改革が言われるようになったのには、それなりの理由があります。我が国の伝統的な教育法に優れた点が多かったにしても、弊害も明らかになってきたからこそ、改革が叫ばれるわけです。ただ、「改革」が余りにも上っ滑りで、現実の条件を無視しているように、教育の現場では受け取られていることも事実です。

だからと言って、「一斉授業の復権」で教育の課題が解決するわけではありません。しかし、ベテランも経験の浅い教師も、確かな技に裏づけされた授業づくりの重要性を、もう一度認識することが必要です。そして、教師としての基礎基本の継承に、手遅れにならないよう全力を挙げて取り組まなければなりません。この本は、改めてそのことを私たちに示してくれました。

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