教育委員だより No.161

                                                                  平成181010

                                        教育長 副島孝

「あってはならないこと」はあるか?

嫌な事件が起きたときに、「あってはならないことだ」とコメントされることがよくあります。ところが、「この世の中にあってはならないことなどない。あってほしくないことはあるけど……」と書かれてある本に出会いました。『日本はなぜ諍いの多い国になったのか』(森真一、中公新書)です。この本を手にしたのは全く偶然でしたが、久し振りに自分の頭で物事を考える人に出会った気がしました。

“「マナー神経症」の時代”とサブタイトルにあるように、現代のマナー問題を取り扱っている本です。「現代人はマナーが悪くなっている」「想像力が衰退している」「しつけが衰退した」と、よく言われます。おおかたの人は、そのとおりだと肯定するはずです(著者も自分自身を、電車の中で不作法な若者を見ると、殴りつけてやりたいと思うタイプだと書いています)。しかし、ここで本当にそうか、と立ち止まって考えるところが、著者の真骨頂です。

マナーがないのではなく、従来とは異なるマナーが形成されているのではないかと考えるのです。無関心のふりをする思いやりなど、現代の人間関係の背後である変化が起きているのではないかと分析します。今の大学生(著者は皇學館大学の先生です)の考え方を基に、「荒れる成人式」や「優等生のひきこもり」、「キレるお客様」などと同じ現象が、家族の中にまで浸透している実態を明らかにします。マスコミなどで流される、大家の立派そうで中身のない説を上手に批判しているのも、参考になります。

しかし、私自身が学んだ最大のものは、「あってはならないこと」という言葉で思考停止を起こしてはならないということです。「あってはならないこと」なら、実際に起きてもリスクとコストを計算して対策を考えるのではなく、ないことにしようと考える人間が出てくるのは避けられません。よく不祥事を隠し立てした事件が報道されますが、これも「あってはならないこと」だと考えることが大きな原因となっているように感じられてなりません。

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