教育委員だより No.168

                                                                  平成1914

                                        教育長 副島孝

年末に映画で第九

 いつの頃からかベートーヴェンの交響曲第9番合唱つき(第九)は、年末に演奏されるのが恒例のようになりました(日本だけの習慣のようですが)。そこでというわけでもありませんが、映画「敬愛なるベートーヴェン」を名演小劇場に見に出かけました。名演小劇場に行ったのは初めてですが、ここでしか上映してないので仕方ありません。名前のとおり元々は演劇用の場所のようで、メジャーの興業ルートに乗らない映画を見るには向いた所かもしれないという印象を受けました。

さて映画は、マエストロ(巨匠)と呼ばれる存在であるベートーヴェンの晩年を描きます。名声を博しながらも私生活に恵まれず、そのうえ聴力が減退する病にかかるなか、十年ぶりの新しい交響曲第九の初演は4日後に迫っています。合唱パートはまだ完成していません。そこで完成を手伝うために彼のもとに送られたのが、写譜師(コピスト)のアンナ・ホルツでした。女性の写譜師に激怒するベートーヴェン。しかし、音楽学校を主席で卒業したばかりで、作曲家をめざすアンナの写譜の腕は確かでした。暗号のようだと言われる彼の楽譜を、正確に清書するだけでなく、あえて修正までするのです。

映画の原題は「Copying Beethoven」(ちなみに登場人物の会話は英語です)で、一体どういう意味だろうと疑問でした。調べてみると、Copyはここでは写譜のことで、写譜師はcopyistと呼ばれることがわかりました。また、作曲家と演奏家の間で写譜師が果たす役割も理解できました。何せ時は1824年です。手書きでの写譜や劇場のろうそくの灯りなど、当時の様子を再現してくれています。

もちろん圧巻は、第九の第4楽章の合唱のシーンです。10分以上の時間をとって、音楽を聴かせ見せます(演奏はハンガリーのケチメート交響楽団と合唱団)。初演の時、合唱隊は第1楽章から舞台に立って並んでいたようです。あまり音が聞こえない状態で指揮したベートーヴェンが、演奏終了後の観客による総立ちの大拍手に気づかない有名な場面ももちろんあります。彼を助けるためにバイオリンの足下で指揮をしていたアンナが、客席を振り向かせます。

当然ながら、アンナ・ホルツはフィクションです。それでも、全く根拠がないわけでもなさそうです。「私は神と対話している」と豪語するベートーヴェンはまた、アパートの住人に迷惑をかけどおしで、アンナの曲にも侮辱的な酷評をします。それでも、「誰よりも早くベートーヴェンの新曲が聴けるのよ」と語る隣室の老婆や「形式や構成にこだわりすぎだ。曲は生き物だ。形を変える雲だ」とアンナを諭すシーンなど、印象的です。

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