教育委員だより No.171

                                                               平成1927

                                        教育長 副島孝

『学力の社会学』を読んで

来年度から実施される学力テスト(正式には全国学力・学習状況調査)の、予備調査問題例や児童生徒・学校への質問紙が、昨年末に公表されました。知識・理解だけでなく、PISA型の応用的な学力にも対応された問題(国語や算数・数学以外の授業で形成された力も必要とするものです)も示されています。さまざまな議論はありますが、私は『論座』2002年6,7月号掲載の「苅谷剛彦教授グループの学力調査」を踏まえ、きちんとしたデータを基にして政策を考えるための内容だという印象を強く抱きました。そこでこの機会に、より詳細な考察を加えた『学力の社会学』(苅谷剛彦・志水宏吉編著、岩波書店)を読んでみました。

もちろん今更言うまでもないことですが、苅谷教授は学力の「ふたこぶラクダ」現象を家庭的環境の影響による社会的「格差問題」の視点から明らかにしたことや、現状分析を基にした基本的な条件整備をしないままでの「教育改革」の危うさを指摘したことで知られています。しかし、この本でなされている考察は、それだけにはとどまりません。学習達成度の階層別・教科領域別の分析、授業と学業達成、ジェンダー差異、学習意欲、階層差と個人の努力などの考察から、その中でも効果をあげている学校の分析など多岐にわたっています。

この分析の基になった学力調査は、多くの面でかなり制約のあるものです。逆に言えば、そのような弱点をもつ学力調査でも、分析をきちんとすれば役立つものになるということです。「正答率の平均を示したりする程度を分析とは言わない」という記述からもわかるように、随所に統計学的な分析のなされている専門書ですので、読みやすくはありません。しかし、「誰の、どんな学力が低下しているのか」という論点からの分析は見事です。

本書では、堂々巡りの水掛け論が多い「学力」を、「ペーパーテストで測定した学業達成」であると明確に定義しています。「たかがペーパーテストの得点に過ぎない」「新しい別の学力がついているはずだ」といった見方に対し、「新しい学力と呼ばれているものも、それを児童・生徒の学習への関わり方から見る限り、ペーパーテストの得点と密接な関係がある」ことを明らかにしています。

このような分析の中には、困難な状況の中でも成果を上げている学校(この中には「同和地区」にある学校も含まれています。小牧なら外国人児童生徒の比率の高い学校でしょうか)の分析もあります。そうした「効果のある学校」には共通して、子どもたちの「集団づくり」が大切にされているのみならず、その背景にある「教師集団のチームワーク」がことのほか大事にされているという特徴があるようです。このことは、該当校の教師たちの言葉のはしばしに出てくる、「うちの学校にはスーパー教師はいらない」「この学校ではスタンドプレーはきらわれる」といった言葉からもうかがえます。

今回本書を読んでみて、あらためて学力調査が意味を持つか否かは、その結果をどう分析し、どう生かすかにかかっていることを痛感しました。学力テストが学校の序列化に利用されたり、本来伸ばすべき学力ではない方向での競争に走ってしまったりした苦い経験を、我が国の教育界は有しています。また同じ愚を繰り返すのか、指導や教育内容の改善に結び付けることに活用できるかが、試されているように感じています。

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