教育委員だより No.179

                                                               平成1958

                                        教育長 副島孝

怪しい情報と教育

「発掘! あるある大事典U」の「納豆ダイエット」の捏造問題は、記憶に新しいところです。制作した関西テレビは民放連盟から除名処分を受ける、という大変な結果となりました。しかし、本当にあの番組や、テレビだけの問題だったのでしょうか。いや実は、大新聞を含め、メディア全体の問題であることを明らかにしているのが『メディア・バイアス』(松永和紀・光文社新書)です。

副題が「あやしい健康情報とニセ科学」であるこの本の著者は、毎日新聞の記者を10年勤めた後に退職したフリーの科学ライターです。「○○は効果がある」という健康情報や、「△△は危ない」とか「××は環境に悪い」などと警鐘を鳴らす情報には、明らかに怪しいものが少なくありません。テレビや週刊誌だけでなく、全国紙にも時々驚くような記事が載ります。この種のまともでない情報が垂れ流され続けるのには、構造的な原因があることを明らかにしています。

本書が扱っている内容は食品問題だけでなく、環境ホルモン騒動、化学物質過敏症報道、添加物バッシング、オーガニック食品、遺伝子組み換え食品、バイオ燃料など多岐にわたっています。怪しげな科学者やもっともらしい団体が介在する場合も、少なくないそうです。インターネット上の情報も、例外ではありません。食品安全について日本語で検索すると、嘘の情報が上位に上がってきてしまうのが現実のようです。

マイナスイオンや「水からの伝言」問題も扱っています。著者は母親でもあり、我が子もこの授業を受けさせられたそうです。科学ジャーナリストとしての怒りは当然です。学校でよく行われる「インターネットで調べる」学習にも、触れています。子どもは農薬や食品添加物などの言葉で検索し、上位に上がってきたサイトを見て、コピー&ペーストで簡単にリポートのまとめてしまいます。しかし、そのリポートは「遺伝子組み換え食品は危険」「外で売っている食べ物の中には食品添加物が山ほど入っている」「農薬は悪いものであることが分かりました」等々、でたらめの記述だらけだと嘆きます。

もちろん、そんな情報ばかりではありません。正しい認識を伝えるサイトもあります。例として、国立医薬品食品衛生研究所の主任研究員ある畝山智香子さんの「食品安全情報blog」が取り上げられています。食品に関わる研究者やサラリーマンが毎日読んでいる人気ブログだそうです。世界各国の行政機関や研究機関のプレスリリース、学術雑誌の論文のエッセンスを日本語で紹介し、元情報にリンクが張られています(英語が読めることの有用性を学ぶ機会にもなります)。「子どもたちに正確な情報を伝えなければ」という母親としてのやむにやまれぬ気持ちが、この大変な作業を支えていると言います。

ついでに『アルツハイマー病の誤解』(小島正美・リヨン社)も、参考になります。著者は現役の毎日新聞編集委員です。書名は、むしろ副題の「健康に関するリスク情報の読み方」の方がよかったと思います。BSE問題をはじめとして、どうして間違ったリスク情報が広まり、訂正されないのかが理解できます。安心を買おうとした結果、安全は大して向上せず、もっと重要なリスクを無視することになり、膨大な税金の無駄遣いをしている現実が学べます。個人的には、現役新聞記者とフリージャーナリストの微妙な立場の違いに、考えさせられ、興味をそそられました。

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