教育委員だよりNo.223                                                                                            

平成20103

教育長 副島孝

外国で学ぶ子どもたちの実態

外国の学校の様子を知るには、いくつかの方法があります。なかでも本人や親の体験記は、リアルさではいちばんです。しかし、個人的な体験を安易に一般化することが危険であることは、多くの事例からすでに明らかです。『アメリカ駐在 これで安心 子どもの教育ナビ』(高橋純子、時事通信社)の著者は、ニューヨークを中心に現地校教育サポートの仕事をしている人です。本書は、アメリカで発行されている日本語紙での「現地校悩み相談コラム」の連載をまとめたものだそうです。つまり、多くの悩み事例を通して、日本人の子どもたちの現実から見た、アメリカの学校教育を知ることができます。

悩みの中で最も多いものは、日本語と英語の習得の問題です。バイリンガル(両言語とも年齢レベルで習得できている場合ですが、著者は「率直に言ってまれな特殊なケース」だとしています)をめざしながら、実際には両言語とも年齢レベルより低いセミリンガルと呼ばれる場合が多いようです。せめてどちらかひとつの言語が年齢レベルで完璧に発達していなければ、後で学習に問題が生じるというのが一般的な考え方だそうです。

表面的には流暢に両言語を話せても、発している文そのものが文法を無視したものであったり、読み書きの力が普通の学年レベルより圧倒的に劣っていたりすることが多く、それが移民やその子どもが多いアメリカ教育界の長年の悩みの種だそうです。アメリカでの生活期間が長くなるにつれて、日本語があやしくなってくるという悩みも多いようです。

小学校でも、学年があがると宿題も多くなります。毎日の宿題の内容も、「プリントや本を読んで意味を理解する」「まとめや感想などを考えて文章に書く」「毎週小テストがあるので単語の綴りを覚える」「算数も数字の計算だけでなく文章題を読んで問題を解く」など、読んで書けなければこなせない内容が山ほど出されるとのことです(ただし、週末や長期休暇には宿題はないのが普通だそうです)。

またアメリカでは、授業中に発言することが"participation"(参加していること)とみなされます。そのため、これが成績の一部として評価されるのが一般的で、発言をしない生徒(日本人に限らずアジア系に多い)はその分の評価は低くなり、成績にも反映します。 これがアメリカでの大学進学(高校での成績が必要)に影響したり、帰国していから生意気と取られるなどのトラブルにつながったりするなど、副次的な影響があるとしています。

学習面だけではありません。アメリカの学校も、さまざまな問題で悩んでいます。不登校やいじめも多いようです(いじめからの自殺、全米で毎日約16万人の子どもたちがいじめのために学校を休む、学校内での銃乱射事件の加害者少年のほとんどはいじめの被害者、などの話題が出ています)。渡米したばかりの日本人の子どもは、英語が話せない、聞けない、読めない、書けない、の四重苦状態なので、毎日相当な苦労や精神的負担から逃れられません。

日本人の子どもが、他の子どもに手を出してしまうと大変です。「小さな紳士を育てる」ことを男の子のしつけの基本にしているアメリカでは、遊びの中やどんな小さい出来事であっても、「暴力は絶対に許されない」ということを小さい時から叩き込むそうです。だから、女の子に攻撃的な行為を行うなどは論外で、どんなに小さくても「将来の要注意人物」として警戒されてしまうといいます。また、ESL(外国人向けの英語指導)の質が悪いとか、担当の先生が熱心でないという苦情や悩みも多いそうです。

この本は、アメリカに駐在が決まり、子どもを現地校に入れるか、日本人学校に入れるかなど親の悩みに対して、具体的に情報や対処法を示して役に立ちます。これはまた、日本にいる外国籍の子どもたちの問題とも重なります。日本の学校で学ぶブラジルをはじめとする外国籍の子どもたちも、実はアメリカの学校で学ぶ日本人の子どもたちと同じ苦労をしているはずです。本書を読むことによって、私たちがこの問題にどう対処するべきかを考えるよい機会となりました。

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